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サードウェーブ系哲学的ゾンビ

知る。考える。感じる。想像する。

さよならBig Dog: 「きもいロボット」でふり返る現代のロボット

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あけましておめでとうございます。

昨年のAdvent Calendarの記事が(下書きはあるものの)結局書けてなくて、大変申し訳ありません。1月のうちに少しずつ出していきたいと思います。

ただ、その前に、旬で今書きたいネタができてしまったので、書いてみたいと思います。

「きもいロボット」Big Dog、開発終了

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Image from the DARPA Strategic Plan (2007)*1

2008年に登場して以来、技術系界隈を中心に話題になり続けた「きもいロボット」ことBig Dogが、昨年末にひっそりと開発を終了していました。正式名称は「LS3」。

www.gizmodo.jp

BigDogの初期段階、初めて四つ足ロボットが登場したのは2008年。Boston Dynamicsが開発しました。その後、2010年に、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)から3200万ドル(約38億円)の資金を得たプロジェクトに発展。2012年にはAlphaDogとして広く知られる存在になりました。ロボット開発者、ロボット好きの間では、常にその進化が楽しみにされていましたが、今年2016年、ついに将来性がないとして米国軍が手を引き、開発終了。

さようなら、DARPAのあの四つ足ロボット! : ギズモード・ジャパン

「Big Dog」って何?という方も多いと思うので、まずはこちらの動画をご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=cNZPRsrwumQ


BigDog Overview (Updated March 2010)

私も久しぶりに見ましたが、ほんとキモいですね・・・。 リアルすぎて人間が入っているようにも見えますが、ちゃんとロボットです。*2

ちなみに、開発終了の決め手はうるさすぎて軍用に使えないとのことです。確かに、こんだけ騒音が出てたら秘密作戦どころじゃないでしょう。

Big Dogを通して見えてくる、現代ロボット工学とその周辺

さて、本題に入ります。

見た目の奇抜さだけが注目されがちなBig Dogですが、実はロボット工学の集大成であり、一つの到達点・マイルストーンでもあります。

本当に重要な技術はおそらく非公開であり、私自身もロボット工学の専門ではないので詳細な議論はしません。その代わり、一般の方向けのロボット工学入門として、いくつかのトピックを紹介したいと思います。

ロバスト性: 外部からの乱れから回復する

ロボット工学、その基礎技術である制御工学では、ロバスト性(ロバストネス)という重要な概念があります。

ロバストネスまたはロバスト性とは、ある系が応力や環境の変化といった外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み、または性質のこと。ロバストネスを持つような設計をロバスト設計、ロバストネスを最適化することをロバスト最適化という。 「頑強な」という意味の形容詞 "robust" が語源であり、他に頑強性、強靭性、堅牢性、強さ、などと呼称されることもある。

ロバストネス - Wikipedia

ロボットは、多数のセンサーと、人工知能による推論・指示を元に、次の行動や姿勢を決定します。その際、「目的地に進む」というメインミッションに加えて、「姿勢の維持」というサブミッションも必要になります。その「姿勢の維持」を支える理論がロバスト性です。

さきほどの動画で、「Big Dogが人に横から蹴られたのに、姿勢を取り戻した」という、ある意味衝撃的なシーンがあったと思います。あれがロバスト性を端的に示したものであり、同時にロバスト性に関する研究成果です。

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ロボットの人工知能のあり方: トップダウン VS ボトムアップ

去年から人工知能ブームが始まったことは、技術に馴染みのない方でもご存じだと思います。

話題のディープラーニングは、主にもの(画像、音声、言葉)の「認識」に関するブレイクスルーでした。

ところで、ロボットにおける人工知能は、また違った観点からの議論が行われてきました。それは、トップダウン・アプローチボトムアップ・アプローチの対立です。

トップダウン・アプローチとは、人間の脳のように、「中心的・集中的なシステムで推論・判断を行う」という考え方です。古典的な論理による人工知能からディープラーニングまで、多数派の考え方です。

このアプローチだけで高度な推論ができるように思われた時期もありましたが、大きな欠点が次第に明らかになりました。それは、計算に時間がかかること、および、あまりに複雑なことです。これは、ロボットというリアルタイムシステムでは致命的な欠点です。

一方、ボトムアップ・アプローチは、「もっと原始的で身体的な部分に知能があるのでは?」と考えます。

例えば、昆虫は、「人間ほど高度な推論ができない」と思われていました。ですが、そうだとしたら、食糧の確保など、どうやって目的を持って動いている(そのように振る舞っている)のでしょうか?

そのような疑問から始まる考え方として現れたのが、ロドニー・ブルックスが提案した包摂アーキテクチャ(サブサンプション・アーキテクチャ)です。

例えば、ロボットが持つ最下位層として「物体を避ける」という振る舞いがあり、その上位層として「うろつきまわる」という振る舞いがあり、そのさらに上位に「世界を探索する」という振る舞いがある。このような階層の最上位にあるのはそのロボットの究極の目的である「地図を作成する」という振る舞いかもしれない。

サブサンプション・アーキテクチャ - Wikipedia

つまり、ロボットの足にセンサーを付けて、以下のルールをプログラミングしておきます:

  • 足に何か当たったら避ける
  • そうでなければ足を動かし続ける

非常に簡単なルールだけですが、ロボットは昆虫のような「それらしい動き」をしてしまいます。

実際にそのような考えで作られた最初のロボットが、ゲンギス(Genghis)です。実際に動画で見てましょう。


Genghis' First Steps

なお、この発想によるロボットは、既に商用化されています。それが、あの有名なロボット掃除機・ルンバです。ルンバはこの原理により、障害物をうまく回避できるようになっています。

ロボットの倫理学: ロボットに対する「かわいそう」とロボットの権利

今まで技術的な話をしましたが、一方でBig Dogをはじめとする最近のロボットは、哲学や倫理学における話題や問題も提供してくれました。

もう一度、Big Dogに戻りましょう。 見てもらいたい部分だけ、GIFアニメだけを引用して再掲します。

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これを見て、何か感じませんでしたか?(国語の授業みたいですが。)

・・・多くの人は、これを見て「かわいそう」という感情が芽生えたのではないでしょうか。 実際、Big Dogが実際の犬だったら、この動画は「倫理的に問題がある」と思われるでしょう。

しかし、よく考えると不思議なことです。ロボットは無機物にすぎず、法的にはせいぜい人間の「所有物」なので、罪が問われるとしたら「器物破損」でしょう。なのに、ロボットに対して感情が芽生えたのです。

そうなると、ロボットに対して人権のような「権利」を考えるのも、不思議ではなくなります。実際、ペットの権利についてはかなり考察されていますし、動物が好きな人にとっては自然な発想でしょう。

このように、ロボットの進化に伴い、新たな倫理的・哲学的な問題が発生し、それを考えようという動きが活発になりつつあります。それが、ロボット倫理学です。

現在、ロボット技術の高度な発展に伴い、医療ロボットや軍事ロボットのように人の生死に直接的に関わるロボット、家事ロボットやペットロボットのように一般市民の生活に密着したロボットが多く現れており、ロボットが人間や社会と関わる場面、そして与える影響は大きくなっている。こうした状況を背景にロボット倫理学は、ロボットとロボット工学に特有の倫理的な問題を扱う応用倫理学の一分野として誕生し、発展してきた。

(中略)

ロボット倫理学が扱う話題は戦争における無人機や自律型兵器の使用の是非、コンパニオンロボットが人間の心理や人間同士の関係に与える影響、ロボットによる情報の収集とプライバシーの問題などがある。特に戦争におけるロボット兵器の使用は、遠隔操作される無人爆撃機がアフガニスタンやイラクで使用され、多くの付帯的損害を生み出していることや、アメリカ・イスラエル・イギリス・韓国などがさらに人間の監督・操作を要しない自律的なロボット兵器の開発を進めていることもあり、多くの関心を引いている。

ロボット倫理学 - Wikipedia

昨今では、軍事における無人戦闘機、自律型兵器が活発に研究されています。今後の戦争は、無人機が主流になるでしょう。また、ドローンは民間・軍事に関わる話題を呼び、法的な問題も出てきました。

photo by Lima Pix

このように、ロボットはもはや技術者のものではなく、市民にとって無視できないものであり、哲学・法学といった「文系」と言われる学問でも真面目かつ緊急に取り扱わなくてはいけない議題になっています。

まとめ

途中で触れたとおり、昨年は人工知能およびその社会への影響が多く議論されました。今年も人工知能ブームはしばらく続くでしょう。

それに加えて、昨年はロボットに関する話題も多くありました。

ルンバは普及段階に入り、既に結婚祝いの定番品になりつつあります。

Pepperはテレビをはじめとしてあらゆるところでお出ましし、ペッパーズによるロボット漫才まで現れました。


ペッパーズ(ペッパー漫才) 3分ネタ動画 - YouTube

技術に興味のある方はもちろん、「文系だから・・・」とロボットを敬遠される方にも、これからのロボットにぜひ注目してください。むしろ、ロボット技術者は、文系のあなたの知見を必要としています

積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小限にする (羽生善治)

参考文献

*1:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:DARPA_Strategic_Plan_%282007%29.pdf

*2:一方、これをネタにしたパロディ(ものまね)の動画もあります。こちらは生身の人間です。BigDog Beta (early Big Dog quadruped robot testing) - YouTube